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ncmr-songs/paxprotej/paranoma.md
2026-02-17 16:41:40 +09:00

3.0 KiB

Paranoma

[1]
馴染みのなかった街に降りて
人の流れに潜り込んで
痺れる日常からの
僅か数千分の逃避行は
今から始まる。

地図でしか見てなかった世界を
足と目で確かめながら
呼び方も知らない、意味も分からない全てを
密やかにこの脳に
パノラマで写す。

他人の枠組みに入れない旅人は
旅先をふるさとにするつもりもない。
期間限定の旅を終わらせないと
逃げられない常設に墜ちてなるから。

[0]
私は汽車です。私は駅舎です。私はプラットフォームです。私は架線柱です。私は歩道橋です。私は自動販売機です。私は枕木です。私は踏切です。私はガソリンスタンドです。私は公衆トイレです。私はエスカレーターです。私は軽油機関です。私はダイナモです。
私は…私たちは…
私たちは道です。私たちは、生命のない、旅を支えたものです。

足の代替としての私たちはただ、人を行きたいところに運ぶ。
生命じゃなく寿命がある私たちは、寿命が終わるまで人間と付き合い続けている。

人間が出会いをする時。
人間が別れをする時。
人間が喜びを感じる時。
人間が寂しさを感じる時。
人間が人間らしいことをする時。
人間が人間らしく感情を感じる時。
生命も感情もない私たちは、生命も感情も有する人間たちの記憶の一部になる。
それが楽しいことであろうか、私たちはわからないけど。
それが悲しいことであろうか、私たちはわからないけど。
それが素晴らしいことであろうか、私たちはわからないけど。
それがくだらないことであろうか、私たちはわからないけど。

それが美しいことであろうか、私たちはわからないけど。

わかるはずもないけど。

道は旅の目的ではなく、手段であるはずでした。
でも道にも美しさが宿っている。
私たちの旅は道に刻まれ、道は私たちの旅に刻まれた。
例え私たちが消えても、道が消えても、
記憶は生き続けるだろう。

[2]
ひとりで旅立つのは好きです。
ひとりで見た景色と、通った道が好きです。
孤独が嫌いではないけど、
ひとりの旅は決して孤独の旅ではない。

煙のない煙突と湯のない風呂
崩れ続ける鉄道橋と解体されている発電所
錆びた道路標識と剥がれた防錆塗装
トンネルを終わらせる光と雪に埋めた電波塔
人気のない街とアスファルトに残った足跡

誰かがそれを見たでしょう。誰かがそれを見るだろう。

いつか見た景色が
幾千の目に映ったことを想像して
世界と非同期に繋がる